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第103話 思いがけない質問

last update Last Updated: 2025-08-31 12:05:01

 俺の質問に対してのカレンの返答は、渋い顔だけだった。

 自分も詳しくは知らないが、昨日事務所には間違いなく二人で入ったらしい。その後も数時間は姿を確認できたが、次の日、つまり今日になってどこにも見当たらなかったと言っていた。

 リハをするにあたって顔合わせと説明という大事な日に、本来であれば仕切る方の人間がいない。事務所側でも近くを探したり、自宅を訪れて確認したようだが、本人の姿は確認できなかったと、セカストの別のメンバーについているマネージャーさんから話が入ったとカレン自体も困惑していた。仕方がないので急遽、自分たちの周りについてもらう人たちだけを集め、カレン達自らが説明する運びにしたそうだ。

 こうなってしまうと俺たちにできることは限られてくる。水野さんの行方は事務所の方なり大人の方々に任せ、俺たちはバイトでの事に集中するほかない。

ただ,出来うる限りの事はしておきたいので、俺は顔を知っていて動けそうな父さんにだけは一方を入れておいた。警察のチカラを使うのか個人的に捜索してくれるかは分からないが、使える物は親でも使う精神で任せる事にする。

 そんな俺の行動を見ていた伊織が、首をかしげて俺の方へと向かってきた。

周りではまだ説明を聞き、動きの確認をするための会話が聞こえているが、俺に与えられた仕事はいつものメンバーも大体同じで、聞いていなかった俺が言うのも変だけど理解はした。後はリハに実際に入って確認するだけの状態なので俺と俺の知り合いメンバーだけが手持無沙汰な人として、部屋の隅に移動していた。

 それでも動き自体が分からなくなったら聞いて、同様に動けばいい。なんて考えていると声をかけられる。

「お義兄ちゃん……」

「ん? 伊織か、どうした?」

 なにかを言いよどむ伊織。

「バイトの件に関しては何とかする。けど、伊織が聞きたいのはその事じゃないんだろ?」

「うん……」

 伊織の頭にポンと手を置く。払いのけられるかとも思ったが、そのまま視線は俺の顔に向いて

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